公園に、母猫と子猫が四匹いました。
母猫は機転の利く方だったので、
いままで子猫たちは飢えもせず暮らしていけました。
春でした。夜の公園は風もなく、それなのに桜の花びらがはらはら落ちて、
地面は華やいで、布を敷いたように気持ちが良かったのです。
末の子猫は色々なことに感じやすい質でした。
他の三匹が、嬉しくて転げまわって遊んでいるのに、それを見ているだけでした。
子猫は母猫に、言いました。
「ねえ、お母さん。私たちはどんなに一緒にいたくても、いつかかならず死んで別れなければいけないのでしょう。」
子猫は本当に、悲しいことを考えていたのでした。丸くなると、毛糸玉のように見えました。
「私は少し前まで、一人でいたの。」母親猫は少しやつれていましたが、美しい三毛でした。背中に花びらを二枚つけて、それが似合っていたのです。
「それなのに、今は、四つの子猫が生まれて、五人になった。とても不思議で、考えてみたの。」
母猫は前にも子猫を生んでいて、つらいこともあったのでした。
「もともと、私たちは一つから始まったのではないかと気がついたの。猫も、カラスも、バッタも、人も、みんなもとは一つから始まった。そして、たとえ死んで離れ離れになったように思えても、いつかまた、一つのものにもどるのよ。」
母猫は子猫がこの先、生きていくための、希望を持たせてあげなくてはいけないのです。
「でもお母さん、どうせ、一つのものなのだったら、私はずっとお母さんと一つでいたかった。離れ離れになる悲しさは、何のためなの。最初の一つのものと、最後になる一つのものとは、なにが違うの。」
「さあ、私は知らない。多分、私たち一人一人の経験が記憶になって、また一つになった時、どんなものになるのかが分かるのだと思うの。」
末の子猫は母猫に寄り添って、このまま動かずにいれば花びらに埋もれてしまいそうに見えました。
その夜の公園の情景は、玉のような美しさと悲しみを伴って、他のどの記憶とも交わらず、すべてのものが一つになる一点まで、たずさえていく記憶の一つなのでした。
エス・トモ
◆エス・トモ