CwOnlineCW Gallary>008

CW Gallary 008

CW Gallary Index
gallary008
 撮影:平 桂弥


「ワー、黒ラブですね。カッコイー。」
走りよってきた若い女性は、しゃがみこんで、犬の額に手を伸ばした。
夫らしい男性も車から降りて近づいてきた。後ろ座席には、小学生くらいの女の子と、もっと幼い男の子が窓を開けてのぞいている。結婚して子供と家と、次は犬が欲しいのね。と心で思った。
「大きいなあ。何キロぐらいですか。」 犬はよだれだらけの鼻面で、男性のジーンズの股の臭いを嗅いだ。コレッといいながら、紐を引いて、三十二、三キロぐらいかな。すぐ太るから、もっとあるかもしれません。
女性は、両手で犬の身体をなでている。この犬は、誰にでも愛想がいい。
もう、十三歳なんです。ほら、口の周りが白いでしょ。風邪引かないように、冬は身体洗ってないから臭いですよ。
「ラブラドルって、頭いいんですよね。」
エエまあ。この犬は娘が小学校に入学する前に、飼い始めたんです。その頃は、犬を放す庭もあったのですが、引っ越すことになりまして、“ペット可”が最重要条件で、今は手狭なマンションなので犬には快適とはいえないでしょうが、それでも、最後まで見てやるほうがいいかと思って、何とか賑やかにやってます。娘はもう十八歳で、親なんか要らないというようですが、犬の方は子供と一緒に育てたから、分離不安症で、そばに人が居ないとその間ずっと吠えてるんです。近所迷惑だから、留守にもできない。仕事に行くときも、車に乗せて連れて行きます。ええ、車は好きですよ。前の車はこの犬が半年ぐらいのとき、運転席の座席をかじって、中からはみだしたスポンジを食いちぎって、それが車の中に舞っていました。見物人が車を囲んで見ていて、歯医者から出てきてびっくりです。今の車もドアやハンドルをかじったり、よだれやらなにやらで、グチャグチャです。車はもうあきらめて、そのまま乗ってます。力が強いから、小さな子供だけで散歩は心配ですね。私でも引っ張られて、つまずいて転んで、ほら、あごを切って三針ぬったんですよ。知り合いで、やっぱり黒ラブの散歩中に転んで、あばら骨にヒビが入った奥さんもいます。この年でメス犬の臭いがすると興奮して、道路をジグザグに引っ張るから、私が交通事故に遭うとすれば、犬と一緒だと思ってます。うちの犬を見て、こんな年寄りにはなりたくないなあ、って言われたりして。ええ、気は優しいですよ。子猫が鼻をかじってもがまんしています。この辺の公園猫は、誰もこの犬を怖がらないです。番犬にはなりません。疲れきって、やっと、ベットに入ったら、枕元でオエーッとやってるんです。仕方が無いから、起きるんですけど。こっそりゴミ箱のティッシュを食べて、吐いてるんです。好きにさせたら、いつも過食です。盗み食いして、信じられないけど笑ってごまかすんです。まあ、犬だけうまくは育てられません。私が躾けたら、自分の子供程度にしかならないってことかな。だから、扱いやすいってことはありませんよ。ああ、犬語翻訳機ね。私は、人間語を犬語に翻訳するのが欲しい。こちらの事情を犬に説明したい時があるんですよ。
夫に促されて、若い家族のピカピカの車は行ってしまった。行く先は、この先にあるホームセンターのペットショップだよ、きっと。どうするんだろうね。バウリンガルが無くても、犬の言いたいことは分かってる。さあ、散歩の続き。今日は、遠回りで。

エス・トモ

top
前の記事を読む 
次の記事を読む>